『COWBOY BEBOP 天国の扉』

2001年 日本 監督:渡辺信一郎

COWBOY BEBOP 天国の扉 [DVD]

COWBOY BEBOP 天国の扉 [DVD]

レンタルDVDDで。
渡辺監督は、『マトリックス』のサイド・ストーリーのアニメ短編集『アニマトリックス』にも作品(Kid's Story(キッズ・ストーリー)』が入ってます。これは、TV版の『COWBOY BEBOP』がアメリカで放映された際に、ウォシャウスキー兄弟のどっちかが観て、監督にオファーしたとかだったかな。この『キッズ・ストーリー』って人物の動きがやたらにフニャラカしとるんですが、これって『COWBOY BEBOP』の主役スパイクのアクションの動きに良く似てます(スパイクは李小龍と同じくジークンドー使いという設定)。

さて、『COWBOY BEBOP 天国の扉』ですが、これは1998年にWOWOWテレビ東京で放映された『COWBOY BEBOP』(以下「TV版」)の劇場版で、登場人物などの設定はTV版と同じですが、ストーリーはオリジナルです。ちなみにTV版は一応最終回で完結しているので、劇場版は続編ではなく、外伝というかサイド・ストーリーですね。お話としてはかなり考証のしっかりしたSF活劇です。制作したサンライズは「ガンダム シリーズ」や「マクロス シリーズ」なんかのロボットアニメの制作会社として有名ですが、『COWBOY BEBOP』にはロボットは出てきません。(渡辺監督は『マクロスプラス MOVIE EDITION』も監督してますけど)。TV版の方は細かい設定がストーリーの伏線になっていたり、有名なSF作品のパロディが入っていたりして、SFファンでないとちょっと敷居が高い作品だったりもするんですが、劇場版の方はSFミステリー仕立てのストーリーで、SFに詳しくなくて、TV版を未見の人でも十分楽しめると思います。

あらすじ
2071年、人類は他の惑星へ次々に移民していた。人類の生活圏は急激に拡大・拡散したため、犯罪が急増、治安の悪化を招いた。そこで犯罪者に賞金を掛け、その摘発を公募する賞金稼ぎ制度が採用されることになった(一応公募は宇宙警察によって行われているらしい)。賞金稼ぎは「カウボーイ」と呼ばれている。
宇宙船ビバップ号に乗るカウボーイたちは、スパイク(声:山寺宏一)、ジェット(声:石塚運昇)、フェイ(声:林原めぐみ)、エド多田葵)と人間並みの知能を持つデータ犬のアインの4人と一匹。例によってなかなか大物をゲットできない彼らは一山当てようと火星にやって来た。
ハイウェイでターゲットのハッカーを追っていたフェイは、突然の大爆発に遭遇。その爆発はただの事故ではなく細菌兵器を使ったテロであることが判明。犯人には3億ウーロンの賞金がかかり、さっそく犯人探しを開始する彼らだったが、事件の背後には軍が関係しており、事件の謎を追う彼らの前に、腕に刺青を持つ男、バザールの豆屋、謎の美女が次々に現れる。

アメリカでの公開も予定されていたためか、火星の都市はアメリカのロスみたいな感じです。クライマックスでハロウィンのパレードが行われるっていう設定も、やはりアメリカの観客を狙っているためでしょう。TV版も脚本、音楽、アクションのレベルが高いのですが、劇場版は相当ハイレベルな仕上がりです。現在、海外の評価を受けてなのか、日本の劇場アニメというと押井監督作品と宮崎監督作品ばかり評価されていますが、この作品ももっと評価されるべきです。押井監督作品もミステリー風のものが多いですが、『攻殻機動隊 GOHST IN THE SHELL』や『イノセント』より脚本はこの作品の方が良くできています。ちなみに脚本はTV版でも担当した信本敬子さん。この人は『AKIRA』の大友克洋監督の実写映画『ワールド・アパートメント・ホラー』の脚本も担当してました。この映画も低予算ながら脚本の良さが際立つ佳作です。
主人公たちもいろいろな過去を背負って賞金稼ぎになった一癖ある連中なのですが、なぜか宇宙船の中で将棋をやってたり、ネイティブ・アメリカンの老人が出て来て予言をしたり、気象をコントロールする役所があったりと、作品の世界観が非常に奥深く重層的になっているのがこの作品の最大の魅力です。あとはとにかく音楽がかっこいい。TV版もDVD化されているので、そちらも是非。

『ピンクフロイド ザ・ウォール』

1983年 イギリス 監督アラン・パーカー

ザ・ウォール [DVD]

ザ・ウォール [DVD]

公開時に劇場で(どこだったかは忘れました)。
たしか、あまりにも一般受けしそうもない内容なのでなかなか公開されず、YMO高橋幸宏氏が運動(?)して、ようやく単館公開されたみたいな経緯があったような記憶があります。
ピンクフロイドといっても初期のプログレやってた頃のじゃなく、やたらメッッセージ性の強い楽曲がメイン(特に同名のアルバム「The Wall」)。記憶ではメンバーはまるっきり出てこないんで、ボブ・ゲルドフボブ・ゲルドフによるボブ・ゲルドフのためのピンクフロイド映画って感じですわ、コレ。

ストーリーは、学校になじめなかった自意識過剰な青年がロック歌手となり、カリスマ・ミュージシャンとしてブイブイ言わせるものの次第に自らの狂気の「壁」に囚われていき、というような電波系の若者の妄想を映像化したような感じのものです。カリスマになった主人公はヒトラーのように聴衆を煽りまくるのですが、オールバックで制服という出で立ちは、ほとんど鳥肌実ジオン公国総帥のギレン・ザビその人です(眉毛を剃るのは基本ね)。ちなみに脚本はロジャー・ウォーターズ

ストーリーよりもひたすらビジュアルがぶっとんでる映画で、野っ原の真ん中の浴槽でリストカットしてお湯が真っ赤というのは、劇場版エヴァンゲリオンでまんまパクられてませんでしたっけ。もう少し工夫せいよ。「エヴァンゲリオン」では、敵の攻撃を防御するフィールド=「心の壁」という比喩がありましたが、これもこの映画の影響では? その他、変なマスクをかぶせられた子供たちがベルトコンベアに乗せられてミンチになっていくシーンとか、グロテスクで見てるだけで「鬱」になりそうな(ピンクフロイドだけに)気違いじみたがシーンやアニメがいっぱいで、落ち込んでいる時なんかに、うっかり観ちゃうとたぶんかなり辛いことになりそうです。

狂気や妄想を映像化しようとした映画は結構あると思いますが、映画監督や映像作家によるそうした映画は、脚本によって狂ってる度もある程度は抑制されるように思うのですが、ミュージシャンとか作家が脚本書いた作品では、そのあたりが「手加減なし」になっちゃうように思います。邦画では寺山修二映画とかがそんな感じだし。

DVDは未見ですが、特典にブチキレたセンスのアニメ担当「ジェラルド・スカーフ」のコメントが入っているとのことで是非見てみたいもんです。

『座頭市と用心棒』

1970年 日本 監督:岡本喜八

座頭市と用心棒 [DVD]

座頭市と用心棒 [DVD]

レンタルDVDで。

殺し合いに疲れた座頭市(カツシン)は、かつて旅の疲れを癒した梅の花の香る平和な村に行ってみることにした。しかし、平和だった村にはヤクザの小仏の松五郎(米倉斉加年)が入り込み、隠し金をめぐって烏帽子屋(滝沢修)と対立していた。
以前、座頭市が村に来た頃に少女だった梅乃(若尾文子)は、今では飯屋の女将で、松五郎の情婦にさせられそうになっているが、店に入り浸っている謎の用心棒、佐々大作(三船敏郎)は梅乃に惚れているらしい。烏帽子屋は座頭市を、小仏一家は佐々をそれぞれ雇って二人は対決する羽目になるが、そこに凄腕の殺し屋、九頭竜(岸田森)がやってくる。

勝プロの社長と三船プロの社長の社長対決。あるいは化け物(妖怪=大映)とケダモノ(怪獣=東宝)の代理戦争。対決の結果は言わずもながなので、両者の対決はラストぎりぎりまで引っ張り、お宝をめぐる駆け引きがストーリーの中心です。
岡本監督作品の常連、岸田森が白塗りでマント(やっぱり!)の殺し屋「九頭竜」を例によって怪演してますが、あまり活躍しないままあっさりやられます。すげー見かけ倒し。
言い寄る男たちを手玉に取っている飯屋の女将に若尾文子。もうこの頃の若尾さんは男を惑わすお色気いっぱいでフェロモン出まくりですね。

岡本監督の作品には『独立愚連隊』や『近頃なぜかチャールストンなど』チームが活躍する話が多く、それがこの監督の作品の独特の持ち味になっていますが、この作品では登場人物同士にチームとしての結びつきがなく、そのため、他の岡本作品とはちょっと違うテイストになっているんだと思います。ストーリーは本当に『用心棒』と『座頭市』と岡本作品をミックスしたような感じ(ってそのまんまじゃん)。
烏帽子屋が佐々に放火されて、三階にいた座頭市が降りようとするのを佐々がからかうシーンは、この頃から三船大先生はあまりユーモラスな演技はしなくなっていただけに妙におかしかったです。あと脇役で草野大悟さんや、寺田農さんが出ていて結構楽しめました。

ラストはまあ、あんな感じですかね。

『Blood The Last Vampire』

2000年 日本 監督:北久保弘之

BLOOD THE LAST VAMPIRE デジタルマスター版 [UMD]

BLOOD THE LAST VAMPIRE デジタルマスター版 [UMD]

レンタルDVDで。
キル・ビル』のオーレン・イシイの生い立ちのアニメパートをベースに制作された劇場アニメ。ウソです! この作品を見たタランティーノが、『キル・ビル』にアニメパート入れることにしたということで、『キル・ビル』で引用された諸作品が『キル・ビル』公開後に再評価される、いわゆる「キル・ビル効果」で有名になった作品。
キル・ビル』で再評価された作品はいっぱいあるんで、そのうち「キル・ビル」か「タランティーノ」ってカテゴリーでも追加しようかな。

英語しかしゃべれない日本人(らしい)帰国子女で、なぜかセーラー服姿のヒロイン小夜(さや)がベトナム戦争当時の横田基地内で、日本刀で吸血鬼とバトルするという、ほとんど「オーレン・イシイ」アニメパートと同じような設定。ヒロインの声をあてているのは、すっかり英語がうまくなった工藤夕貴さん。

ご存じの方も多いと思いますが、これを制作した「プロダクションi.G.」は押井守監督の作品などで、人間の格闘系アクションを得意とするアニメ制作会社。キャラの造形にややクセがあるものの(この作品のキャラ設定はイラストレーターの寺田克也氏)、アクション描写は世界屈指です。
アメリカでの公開を前提にしたためだろうと思うけど、登場人物が全員英語しか喋らず日本版は字幕付きだとか、公開当時は北久保監督やプロダクションi.G.自体の知名度がそんなになかったこともあって、あんまり話題にならなかったと記憶しています。
吸血鬼の特性やバックボーンがほとんど明かされないままというのは、吸血鬼映画のセオリーからするとちょっとNGなんですが、この映画の吸血鬼は「翼手」という、世間一般(?)の吸血鬼とはちょっと違う種類のようです。

小太りの保険の先生が事件に巻き込まれて行くんですが、わざわざ危険な方に逃げたりとか、行動パターンがまるでドリフのコントみたいです。メリケン製ホラー映画に出てくる、叫ぶだけの頭からっぽヒロインの影響なのでしょうか。アクションがハイレベルなだけに、ちと残念でした。

企画成立の経緯や、プロダクションi.G.と押井守監督の関係などはこちらを参照してください。
http://www.sonymusic.co.jp/Animation/blood/

『惡魔の手毬唄』

1977年 日本 監督:市川崑

悪魔の手毬唄 [DVD]

悪魔の手毬唄 [DVD]

レンタルDVDで。

サスペリア Part2』がイタリアン・ホラーサスペンスの金字塔だとすれば、日本のホラーサスペンスのベストは間違いなくこの作品だと言っていいと思う。

岡山の山村、鬼首(おにこべ)村の湯治場「亀の湯」で金田一石坂浩二)は岡山県警の磯川警部(若山富三郎)を待っていた。磯川警部は20年前に、亀の湯の女主人青池リカ(岸恵子)の夫、源二郎が殺害された事件にある疑惑を持っており、その謎を解いてほしいと金田一に依頼する。一方村の青年たちは、人気歌手になった千絵子(仁科明子)が帰郷するというので歓迎の準備を始めていた。逗留中に金田一はお庄屋と呼ばれる多々良放庵(中村伸雄)から手紙の代筆を頼まれていたが、千絵子が村に戻った日、総社へ行く峠道で、手紙の宛先のおはんと名乗る老婆と行き違った。しかし総社の旅館井筒屋の女将(山岡久乃)は、訪ねてきた金田一に、おはんは既に死亡していると告げる。一方、鬼首村では訪ねて来た何者かと酒盛りしたらしい放庵が、どす黒い血痕を残し失踪していた。そして、千絵子のクラスメイトだった村の名家由良家の娘泰子(高橋洋子)が殺され、死体には升と漏斗が置かれていた。金田一が見た老婆が犯人なのか。なぜ犯人は死体に升と漏斗を置いたのか。事件を調べる磯川と金田一は、殺された娘が20年前の殺人事件の発端となった詐欺師恩田につながりを持つことを知り、事件の真相に迫って行くが、さらに第二の殺人が...。

東宝は以前に紹介した日本で唯一の吸血鬼映画「血を吸う」シリーズなどを製作していたので、サスペンス/ホラーについてはそれなりに実績はあったが、本格ミステリーとしてはこれといった作品を作っていなかったように思う。そこで、角川映画横溝正史の『犬神家の一族』を映画化する際に、自身もミステリー好きで、過去に日活で久里子亭ペンネームで自ら脚本を手がけてミステリー作品を撮っていた市川監督が起用されることになったようだ。実際この起用は成功で『犬神家の一族』は大ヒットしたので、東宝は次回作として『惡魔の手毬唄』の制作を決定し、以後、『獄門島』『女王蜂』『病院坂の首縊りの家』の4作品が市川監督によって石坂浩二金田一耕助のシリーズとして制作されたが、ストーリーの処理、映像、音楽、役者の演技などすべての面で、この作品がシリーズ中のベストだと思う。『サスペリア Part2』では、犯人が殺人を行う時に、わざわざカセットテープでボーイソプラノの曲を流す(この曲の旋律が美しいだけに不気味な効果が上がっている)のだが、本作品では村に伝わる手毬唄(作曲は村井邦彦)が効果的に使われている。中盤、被害者の娘たちを象徴する人形のメイクをした4人の少女が手毬唄に合わせて手毬をつくイメージシーンはまさに妖幻というにふさわしい。

主演の石坂浩二をはじめ、ベテランの若山富三郎岸恵子草笛光子辰巳柳太郎、中村伸雄、山岡久乃といった俳優陣の演技が絶品。特に若山トミー大先生と石坂浩二のかけあいや、草笛光子辰巳柳太郎のやりとりは見所で(ちなみに草笛さんが右足を引きずっているのは演技ではなく、撮影に入ったら原因不明で急に動かなくなったらしい)、常連の三木のり平(と無口な古女房)や大滝秀治も相変わらずいい味出してるし、個性派女優白石加代子の不気味すぎる(!)演技や常田富士男の半分くらい地でやってそうな酔っぱらいキャラも抜群。シャイなトミー大先生と岸恵子さんの大人のラブも凄くいい。

実際に地方の旧家や旅館でロケ撮影したようで、古い日本情緒が映像で堪能できるのもこのシリーズの素晴らしいところ。主役の金田一をはじめ登場人物の多くは和服を着ている。現在ではこうした風物は次第になくなってきているので、その意味でも古い日本の生活を伝える貴重な作品になっていくのかもしれない。日本の伝統の奥深さを実感できる。

殺人描写は、毒殺×1、絞殺×2、撲殺×2、撲殺ではおなじみの東宝スプラッター血飛沫さらに死体損壊までやって結構インパクトあり。公開当時は年齢制限なかったようだが、現在では間違いなく15R指定だろう。

『修羅雪姫 怨み恋歌』

1974年 日本 監督:藤田敏八

修羅雪姫 怨み恋歌 [DVD]

修羅雪姫 怨み恋歌 [DVD]

Amazon修羅雪姫とセット購入

前作で父母の仇を討ち瀕死の重傷を負ったお雪(梶芽衣子)だったが生き延び、それから10年後、重罪犯として官警に追われる身となっていた。
巡査隊との死闘で負傷した雪は放浪中の医師(原田芳雄)に助けられるが、力尽き遂に捕縛される。死刑囚として護送される雪を助けたのは、自由主義運動を弾圧する秘密警察の長、菊井(岸田森)だった。菊井は雪の助命の条件として、自由主義運動家(伊丹十三)の家に下女として潜入しある秘密文書のありかを探るように迫るのだが...。

冒頭の約30分で上のストーリーが結構テンポよく進みます。一作目は原作をアレンジした展開でしたが、本作は独自のストーリーで、登場人物も雪以外は全員オリジナルキャラ。岸田森原田芳雄伊丹十三吉行和子南原宏治、山本麟一といった個性派というか正直癖のあり過ぎる俳優陣の異常な熱演が楽しめます。
70年代っぽい「国家権力=悪/反体制=善」の単純過ぎるイデオロギー的二元論の世界観にはやや辟易してしまいますが、純粋にアクション映画として見ればかなり楽しめます。吉行和子が山本麟一演じる刑事の片目を刺したり、岸田森の手下の南原宏治が拘束された片腕を切断して逃亡したりと同時期にやはり梶芽衣子主演で制作された、東映の『女囚さそり』シリーズへのオマージュとしか思えないシーンもあり監督のファンサービスかも?と思えます。

梶さんは、相変わらずのクールビューティーっぷり。岸田森と対決し、傘の仕込みを突きつけるシーンの緊張感溢れる演技は素晴らしい。清楚な中に強靭な意思を秘めた鋭い視線に、映画の観客も突き刺されるようです。梶さんはデビュー前は六本木族で夜遊びしているところをスカウトされたそうですが、デビューしたての頃は、自分のことを「あたい」と呼ぶような、いわゆる「はすっぱ」という感じのしゃべり方の役が多く、お嬢様っぽいような台詞はあまりうまくない女優さんだったようです。日活の「野良猫ロック」シリーズのヒッピーや、TV時代劇『荒野の素浪人』の女渡世人なんかでは、そういう感じが役にはまっているんですが、修羅雪姫の雪は原作でもあまりしゃべらないキャラなので、一層目での演技が重要になったということでしょう。ちなみに女優さんの中でも歌はお上手な方で、CDに収録されている『銀蝶渡り鳥』や『修羅の花』は何度も聞き返してしまう名曲です。

また、ストーリーの無茶苦茶さと反比例して、藤田監督らしい静謐で美しいシーンが全編に散りばめられています。冒頭の坂道を下りながらの手持ちカメラでの殺陣の撮影も凄いですが、その後の海岸の波打ち際でのローアングル撮影のシーンや、伊丹十三の死体を舟に乗せて火葬にするシーンは日本アクション映画屈指の名シーンと言えるでしょう。

『修羅雪姫』

1973年 日本 監督:藤田敏八

修羅雪姫 [DVD]

修羅雪姫 [DVD]

この作品を語るには、まず、クエンティン・タランティーノという一人の映画オタクの話から始めなければならない。1963年アメリカ合衆国テネシー州に生まれたこの一人の男は、高校中退後、レンタルビデオショップで店員として働き始めるのだが、それはもちろん店員の役得として店のビデオをただで借りられるからだった。バイト代は、ビデオの購入資金となり、また、いわゆる「プログラムピクチャー」と呼ばれるB級映画が良くかかる映画館の入場料ともなった。その時に見た映画の中でも彼に大きな影響を与えたと思われる日本映画が、深作欣二監督の『仁義なき戦い』シリーズ、三隅研二監督の『子連れ狼』シリーズ、そして梶芽衣子主演の『さそり』シリーズと、この『修羅雪姫』などであった。
子連れ狼』と『修羅雪姫』の原作がともに小池一夫であるのは偶然ではないだろう。アクションと残酷描写と奇想天外な物語性が渾然一体となった希有な世界観は日本人のみならず、このアメリカ人青年をも深く魅了したのだ。こうして彼の「カタナ」に対する偏愛ぶりは、彼の出世作となった『パルプ・フィクション』のブルース・ウィリスが落ち目のボクサーとして登場するいささかエキセントリックなエピソードとして、われわれ日本人観客の失笑を買うはめになる。しかし、それからついに9年の歳月を経て、『キル・ビル』で、武士道とジークンドーの奥義を極めたユマ・サーマン演じる金髪の女剣士が誕生するのだが、殺陣と演技指導のためにタランティーノがユマに繰り返し見せたのが他でもない『修羅雪姫』のビデオだったというのは有名な話だ。

時は明治。雪が降りしきる日に監獄で一人の女囚が女の子を産み、その子に自分の恨みを託して息絶えた。女の子はお雪と名付けられ、惨殺された父と監獄で非業の死を遂げた母の敵を討つため、元旗本の道海和尚(西村晃)に殺人剣を仕込まれ修羅の子として育てられる。成人し、「修羅雪姫」と異名を取る凄腕の殺し屋となったお雪(梶芽衣子)は、ヒッピー風の非人の頭領(高木均)や、反体制の青年作家(黒沢年男)らの協力で、仇を突き止め、一人、また一人と血祭りに上げて行く。

なぜか東宝の時代劇はやたら血糊の量が多く、同じ「勝プロ」の作品でも大映の『座頭市』シリーズでは血が飛び散るようなシーンはほとんどないのに、東宝の『子連れ狼』シリーズや『御用牙』シリーズでは、やたら血が飛び散り、斬られた首や手足がすっ飛ぶ。マニアに「スプラッター時代劇」と呼ばれる所以だ。他にこんな残酷描写が見られるのは、東映石井輝男監督の『ポルノ時代劇 忘八武士道』くらい。『忘八武士道』も小池一夫原作。なにやら小池一夫原作に鍵がありそうだ。
修羅雪姫』でもやたらに血糊を大量に使いまくっている。冒頭のお雪の父親が惨殺されるシーンなど、わざわざ川岸で殺して川の流れを血で紅くするという凝りよう。また、DVD収録された梶芽衣子さんのインタビューでは、顔にかかった返り血の量があまりに多くて目が見えなくなり撮影が中断したなんて凄いエピソードが語られる。
ここまでピューピューと豪勢に血が出まくると、痛々しいとか残酷とかいう感覚も次第に麻痺し、なんだか斬られたことを示す一種の記号というか、お約束みたいになってくるから不思議だ。

梶芽衣子さんのクールビューティーっぷりについては、続編の『修羅雪姫 怨み恋歌』で。