『惡魔の手毬唄』

1977年 日本 監督:市川崑

悪魔の手毬唄 [DVD]

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サスペリア Part2』がイタリアン・ホラーサスペンスの金字塔だとすれば、日本のホラーサスペンスのベストは間違いなくこの作品だと言っていいと思う。

岡山の山村、鬼首(おにこべ)村の湯治場「亀の湯」で金田一石坂浩二)は岡山県警の磯川警部(若山富三郎)を待っていた。磯川警部は20年前に、亀の湯の女主人青池リカ(岸恵子)の夫、源二郎が殺害された事件にある疑惑を持っており、その謎を解いてほしいと金田一に依頼する。一方村の青年たちは、人気歌手になった千絵子(仁科明子)が帰郷するというので歓迎の準備を始めていた。逗留中に金田一はお庄屋と呼ばれる多々良放庵(中村伸雄)から手紙の代筆を頼まれていたが、千絵子が村に戻った日、総社へ行く峠道で、手紙の宛先のおはんと名乗る老婆と行き違った。しかし総社の旅館井筒屋の女将(山岡久乃)は、訪ねてきた金田一に、おはんは既に死亡していると告げる。一方、鬼首村では訪ねて来た何者かと酒盛りしたらしい放庵が、どす黒い血痕を残し失踪していた。そして、千絵子のクラスメイトだった村の名家由良家の娘泰子(高橋洋子)が殺され、死体には升と漏斗が置かれていた。金田一が見た老婆が犯人なのか。なぜ犯人は死体に升と漏斗を置いたのか。事件を調べる磯川と金田一は、殺された娘が20年前の殺人事件の発端となった詐欺師恩田につながりを持つことを知り、事件の真相に迫って行くが、さらに第二の殺人が...。

東宝は以前に紹介した日本で唯一の吸血鬼映画「血を吸う」シリーズなどを製作していたので、サスペンス/ホラーについてはそれなりに実績はあったが、本格ミステリーとしてはこれといった作品を作っていなかったように思う。そこで、角川映画横溝正史の『犬神家の一族』を映画化する際に、自身もミステリー好きで、過去に日活で久里子亭ペンネームで自ら脚本を手がけてミステリー作品を撮っていた市川監督が起用されることになったようだ。実際この起用は成功で『犬神家の一族』は大ヒットしたので、東宝は次回作として『惡魔の手毬唄』の制作を決定し、以後、『獄門島』『女王蜂』『病院坂の首縊りの家』の4作品が市川監督によって石坂浩二金田一耕助のシリーズとして制作されたが、ストーリーの処理、映像、音楽、役者の演技などすべての面で、この作品がシリーズ中のベストだと思う。『サスペリア Part2』では、犯人が殺人を行う時に、わざわざカセットテープでボーイソプラノの曲を流す(この曲の旋律が美しいだけに不気味な効果が上がっている)のだが、本作品では村に伝わる手毬唄(作曲は村井邦彦)が効果的に使われている。中盤、被害者の娘たちを象徴する人形のメイクをした4人の少女が手毬唄に合わせて手毬をつくイメージシーンはまさに妖幻というにふさわしい。

主演の石坂浩二をはじめ、ベテランの若山富三郎岸恵子草笛光子辰巳柳太郎、中村伸雄、山岡久乃といった俳優陣の演技が絶品。特に若山トミー大先生と石坂浩二のかけあいや、草笛光子辰巳柳太郎のやりとりは見所で(ちなみに草笛さんが右足を引きずっているのは演技ではなく、撮影に入ったら原因不明で急に動かなくなったらしい)、常連の三木のり平(と無口な古女房)や大滝秀治も相変わらずいい味出してるし、個性派女優白石加代子の不気味すぎる(!)演技や常田富士男の半分くらい地でやってそうな酔っぱらいキャラも抜群。シャイなトミー大先生と岸恵子さんの大人のラブも凄くいい。

実際に地方の旧家や旅館でロケ撮影したようで、古い日本情緒が映像で堪能できるのもこのシリーズの素晴らしいところ。主役の金田一をはじめ登場人物の多くは和服を着ている。現在ではこうした風物は次第になくなってきているので、その意味でも古い日本の生活を伝える貴重な作品になっていくのかもしれない。日本の伝統の奥深さを実感できる。

殺人描写は、毒殺×1、絞殺×2、撲殺×2、撲殺ではおなじみの東宝スプラッター血飛沫さらに死体損壊までやって結構インパクトあり。公開当時は年齢制限なかったようだが、現在では間違いなく15R指定だろう。