『修羅雪姫 怨み恋歌』

1974年 日本 監督:藤田敏八

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前作で父母の仇を討ち瀕死の重傷を負ったお雪(梶芽衣子)だったが生き延び、それから10年後、重罪犯として官警に追われる身となっていた。
巡査隊との死闘で負傷した雪は放浪中の医師(原田芳雄)に助けられるが、力尽き遂に捕縛される。死刑囚として護送される雪を助けたのは、自由主義運動を弾圧する秘密警察の長、菊井(岸田森)だった。菊井は雪の助命の条件として、自由主義運動家(伊丹十三)の家に下女として潜入しある秘密文書のありかを探るように迫るのだが...。

冒頭の約30分で上のストーリーが結構テンポよく進みます。一作目は原作をアレンジした展開でしたが、本作は独自のストーリーで、登場人物も雪以外は全員オリジナルキャラ。岸田森原田芳雄伊丹十三吉行和子南原宏治、山本麟一といった個性派というか正直癖のあり過ぎる俳優陣の異常な熱演が楽しめます。
70年代っぽい「国家権力=悪/反体制=善」の単純過ぎるイデオロギー的二元論の世界観にはやや辟易してしまいますが、純粋にアクション映画として見ればかなり楽しめます。吉行和子が山本麟一演じる刑事の片目を刺したり、岸田森の手下の南原宏治が拘束された片腕を切断して逃亡したりと同時期にやはり梶芽衣子主演で制作された、東映の『女囚さそり』シリーズへのオマージュとしか思えないシーンもあり監督のファンサービスかも?と思えます。

梶さんは、相変わらずのクールビューティーっぷり。岸田森と対決し、傘の仕込みを突きつけるシーンの緊張感溢れる演技は素晴らしい。清楚な中に強靭な意思を秘めた鋭い視線に、映画の観客も突き刺されるようです。梶さんはデビュー前は六本木族で夜遊びしているところをスカウトされたそうですが、デビューしたての頃は、自分のことを「あたい」と呼ぶような、いわゆる「はすっぱ」という感じのしゃべり方の役が多く、お嬢様っぽいような台詞はあまりうまくない女優さんだったようです。日活の「野良猫ロック」シリーズのヒッピーや、TV時代劇『荒野の素浪人』の女渡世人なんかでは、そういう感じが役にはまっているんですが、修羅雪姫の雪は原作でもあまりしゃべらないキャラなので、一層目での演技が重要になったということでしょう。ちなみに女優さんの中でも歌はお上手な方で、CDに収録されている『銀蝶渡り鳥』や『修羅の花』は何度も聞き返してしまう名曲です。

また、ストーリーの無茶苦茶さと反比例して、藤田監督らしい静謐で美しいシーンが全編に散りばめられています。冒頭の坂道を下りながらの手持ちカメラでの殺陣の撮影も凄いですが、その後の海岸の波打ち際でのローアングル撮影のシーンや、伊丹十三の死体を舟に乗せて火葬にするシーンは日本アクション映画屈指の名シーンと言えるでしょう。