『修羅雪姫』

1973年 日本 監督:藤田敏八

修羅雪姫 [DVD]

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この作品を語るには、まず、クエンティン・タランティーノという一人の映画オタクの話から始めなければならない。1963年アメリカ合衆国テネシー州に生まれたこの一人の男は、高校中退後、レンタルビデオショップで店員として働き始めるのだが、それはもちろん店員の役得として店のビデオをただで借りられるからだった。バイト代は、ビデオの購入資金となり、また、いわゆる「プログラムピクチャー」と呼ばれるB級映画が良くかかる映画館の入場料ともなった。その時に見た映画の中でも彼に大きな影響を与えたと思われる日本映画が、深作欣二監督の『仁義なき戦い』シリーズ、三隅研二監督の『子連れ狼』シリーズ、そして梶芽衣子主演の『さそり』シリーズと、この『修羅雪姫』などであった。
子連れ狼』と『修羅雪姫』の原作がともに小池一夫であるのは偶然ではないだろう。アクションと残酷描写と奇想天外な物語性が渾然一体となった希有な世界観は日本人のみならず、このアメリカ人青年をも深く魅了したのだ。こうして彼の「カタナ」に対する偏愛ぶりは、彼の出世作となった『パルプ・フィクション』のブルース・ウィリスが落ち目のボクサーとして登場するいささかエキセントリックなエピソードとして、われわれ日本人観客の失笑を買うはめになる。しかし、それからついに9年の歳月を経て、『キル・ビル』で、武士道とジークンドーの奥義を極めたユマ・サーマン演じる金髪の女剣士が誕生するのだが、殺陣と演技指導のためにタランティーノがユマに繰り返し見せたのが他でもない『修羅雪姫』のビデオだったというのは有名な話だ。

時は明治。雪が降りしきる日に監獄で一人の女囚が女の子を産み、その子に自分の恨みを託して息絶えた。女の子はお雪と名付けられ、惨殺された父と監獄で非業の死を遂げた母の敵を討つため、元旗本の道海和尚(西村晃)に殺人剣を仕込まれ修羅の子として育てられる。成人し、「修羅雪姫」と異名を取る凄腕の殺し屋となったお雪(梶芽衣子)は、ヒッピー風の非人の頭領(高木均)や、反体制の青年作家(黒沢年男)らの協力で、仇を突き止め、一人、また一人と血祭りに上げて行く。

なぜか東宝の時代劇はやたら血糊の量が多く、同じ「勝プロ」の作品でも大映の『座頭市』シリーズでは血が飛び散るようなシーンはほとんどないのに、東宝の『子連れ狼』シリーズや『御用牙』シリーズでは、やたら血が飛び散り、斬られた首や手足がすっ飛ぶ。マニアに「スプラッター時代劇」と呼ばれる所以だ。他にこんな残酷描写が見られるのは、東映石井輝男監督の『ポルノ時代劇 忘八武士道』くらい。『忘八武士道』も小池一夫原作。なにやら小池一夫原作に鍵がありそうだ。
修羅雪姫』でもやたらに血糊を大量に使いまくっている。冒頭のお雪の父親が惨殺されるシーンなど、わざわざ川岸で殺して川の流れを血で紅くするという凝りよう。また、DVD収録された梶芽衣子さんのインタビューでは、顔にかかった返り血の量があまりに多くて目が見えなくなり撮影が中断したなんて凄いエピソードが語られる。
ここまでピューピューと豪勢に血が出まくると、痛々しいとか残酷とかいう感覚も次第に麻痺し、なんだか斬られたことを示す一種の記号というか、お約束みたいになってくるから不思議だ。

梶芽衣子さんのクールビューティーっぷりについては、続編の『修羅雪姫 怨み恋歌』で。