『地球最後の男』 

1964年 アメリカ/イタリア 監督:シドニーサルコウ、ウバルド・ラゴーナ

地球最後の男/人類SOS!(2in1) [DVD]

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とりあえず、2008年最初の更新。まあ、それがゾンビ(吸血鬼?)映画ってのも何ですが、このブログらしいかと。原作はリチャード・マシスンのSF作品"I am Legend"。去年の12月に公開されたウイル・スミス主演の「アイ・アム・レジェンド」は原作のタイトルのままで三度目の映画化。今回紹介するのは1964年に最初に映画化されたやつです。主演はクラシック・ホラー作品の常連ヴィンセント・プライス。主役がヴィンセント・プライスだってこともありますが、かなーりダウナーな雰囲気の作品で全体的に終末感が漂いまくってます。「アイ・アム・レジェンド」は未見ですが、予告編を見ると主人公の日常生活をていねいに描写しているようでわりと原作に近いかも。
吸血鬼モノに分類される本作ですが、吸血鬼(というより吸血病に罹った病人たちなんだけど)の描写がほとんどゾンビなので本作をゾンビ映画の嚆矢とする見方もあります。それについてはまた後ほど。

あらすじ

医学研究所の研究員ロバートは孤独な毎日を送っていた。彼の日課は家の周りに吊るしたニンニクを新鮮なものに替え、無線で生存者がいないか確認し、家の周りの死体を車で焼却場まで運んで焼却し、無人のショッピングセンターで食料を調達し、太陽を避けて隠れている吸血鬼を探して先を鋭く尖らせた杭を打ち込んで殺すこと。夜になると活動を始めた吸血鬼たちが彼の家へと侵入しようと集まってくる。今や生きている人間は彼一人で、孤独な戦いを続けている。ある日、彼は日課の途中で墓地に立ち寄った。そこには彼の妻が埋葬されていた。かつて過ごした妻や娘との平和な日々は娘の発病で終わってしまった。世界的に流行している謎の疫病に感染したのだ。この疫病に感染すると目が見えなくなり間もなく死に至る。なぜか政府は患者の遺体を強制的に焼却処分していた。やがて妻も発病し彼は密かに妻の死体を空き地に埋めたのだが、ある晩、ドアの外から「ロバート、ロバート」と彼を呼ぶ声がした。彼はようやく死体を焼却している真の理由を知った。ドアの外には埋葬した妻が立っていたのだ...。

それまでの吸血鬼映画のパターン(=お約束)は、
1)伝説上の吸血鬼(一種のモンスター)が現れる
2)吸血鬼に血を吸われると吸われた方も吸血鬼になる
3)吸血鬼になると昼は活動できない
4)吸血鬼は十字架とニンニクに弱く、姿が鏡に映らない
5)心臓を杭で刺すと死ぬ
6)太陽にあたると死ぬ
といったものでした。この作品では、まず伝説上の吸血鬼というのが出て来ません。あらすじで紹介したように、伝染病にかかるといったん死んで、その後なぜか吸血鬼みたいな状態で死体が復活するのです。設定としては「バイオハザード」の元祖って感じでしょうか。それで復活した後で血を吸うようになるのか、というと実は映画を見てもはっきりしません。具体的に血を吸っているシーンがないのです。一方で復活した死体たちは吸血鬼としての属性は備えていて3)昼は活動できない(理由は説明されませんが発病後に失明することと関係あり?)、4)ニンニクと鏡に弱い(さすがに十字架がダメってのは世界規模で非キリスト教圏にも伝染病は流行してる訳で科学的に説明できないのでスルーされたんでしょう。鏡に映らないってのも科学的に無理があるので、鏡に弱いとしたのでは?これも理由は不明です)、5)心臓を杭で刺すと死ぬ、などは取り入れられています。
ゾンビ映画のパターンは次回にでもまとめてみますが、最初のゾンビ映画と言われるジョージ・A・ロメロ監督の「ナイト・オブ・ザ・リビングデッド」では、ゾンビ(ちなみにこの映画と次作の「ドーン・オブ・ザ・デッド(邦題「ゾンビ」)」では、作品中にまだゾンビという呼称が出て来ません)の属性に昼は活動しない、というのがあって、「地球最後の男」の設定に影響を受けていることがうかがわれます。何より復活した死体が徘徊するときの動きがぎくしゃくしていて、現在の感覚からするとどう見ても吸血鬼というよりはゾンビにしか見えません。この動きは死体の復活を科学的に検証した結果であろうと思います。いったん死んだ時に脳が酸欠状態になるので運動機能に障害が出る、ということでしょう。生きている人間が血を吸われて吸血鬼化する従来の吸血鬼映画とは完全に一線を画しています。ロバートが食料を調達に行く無人になっているショッピングセンターや道に死体がゴロゴロしている描写とかも後のゾンビ映画に大いに影響を与えているようです。
全編モノクロですが、用途不明の謎の白いタワーやロバートの勤務先の研究所、最後に出てくる「新人類」のファッションなどがちょっと近未来していてSF映画としてもそこそこ頑張っている感じ。

最低映画館「地球最後の男のレビュー」
http://www5b.biglobe.ne.jp/~madison/worst/vamp/lastman.html
最低映画館はよく拝見しているサイトです。自分はトラッシュ・マウンテン・ビデオのDVD「人類SOS」とのツインパック買ったんですが、これが出る前に輸入版を購入してレビュー記事を書かれたようで頭が下がります。