『コンタクト』 

1997年 アメリカ 監督:ロバート・ゼメキス

コンタクト 特別版 [DVD]

コンタクト 特別版 [DVD]

ハリウッドSFの山田洋次ことSF人情喜劇の名手ロバート・ゼメキスNASAの宣伝マン、カール・セーガンのドリームタッグ。未知との遭遇は夢か現実(うつつ)か幻か。SFに興味がない人が見たら自己中で世間知らずの宇宙ヲタの女性研究者と権力欲ギトギトのパワハラおやじとのバトルにしか見えんかも(苦笑。でも、さすがに御大セーガンの小説が原作だけあってSF考証が緻密だし、それを『フォレストガンプ 一期一会』の監督がリアルに映像化した圧倒的なヴィジュアルでオープニングから押しまくられの150分です。是非大画面でご堪能あれ。

あらすじ

電波天文学者(アブナイ脳内電波を発している天文学者ではなく宇宙から飛来する電波を研究する天文学者です。念のため)エリー・アロウェイ博士(ジョディ・フォスター)は南米の電波天文台基地で地球外の知的生命探査を続けていたが、上司のドラムリン博士(トム・スケリット)に邪魔されてばかり。ブーたれていた彼女に謎のイケメン、パーマー・ジョス(マシュー・マコノヒー)が急接近。勢いでベッドインした二人だが、彼は何と神父様で宗教と科学は融合可能だと言う。基地での調査もドラムリンに予算をカットされて頓挫してしまう。
ニューメキシコの電波基地で独自に調査を始めるためスポンサーを捜していた彼女は謎の大富豪ハデン(ジョン・ハート)から研究資金を引き出すことに成功。しかしドラムリンをはじめとした研究者たちからの圧力で電波基地を追い出されることに。立ち退きが3ヶ月後に迫ったある日、突然ヴェガ星の方角から規則的な電波を受信。発見の報告に国家安全顧問官マイケル・キッズ(ジェームス・ウッズ)と科学顧問官になったドラムリンが乗り込んで来て調査の主導権を握ろうと画策する。一方、電波に暗号が含まれていることを発見したエリーのチームだったが暗号の解読が進まない中、エリーは研究施設のネットワークにハッキングしたハデンから呼び出されるのだが...。


監督をはじめとした制作スタッフの多くが1994年の『フォレストガンプ 一期一会』とカブっているので、SF映画なのに作品全体として「ガンプ」に近い印象を受けます。アクションシーンもないし。『スターウォーズ』以降のSF映画は良くも悪くもアクションがメインになっちゃいますが、それ以前には『2001年宇宙の旅』や『惑星ソラリス』といった科学的な考証に比重を置いた哲学的な内容のアクションなしのSF映画も結構あったんです。もっとも、キューブリックタルコフスキーは他のSFでない作品も結構独特ですが。最近のハリウッドのSF映画でアクションシーンが皆無というのはもうないので、その意味ではこの作品が最後の純SF映画なのかもしれません。

ゼメキス監督は1995年の第67回アカデミー賞で作品賞、監督賞、主演男優賞(トム・ハンクス)、脚色賞、編集賞、視覚効果賞の主要6部門を総ナメにした「ガンプ」で見せた「架空の出来事を完璧なまでにリアルに作る」という姿勢を『コンタクト』でも踏襲しています。「ガンプ」では主人公ガンプ青年がベトナム戦争当時の大統領(ケネディとかニクソン)と会見するという合成ニュース映像が使われましたが、『コンタクト』では製作当時のクリントン大統領の会見映像を加工して使用しています。また状況を説明するのにCNNのニュース映像も使われていて、登場するキャスターは実際のCNNのニュースキャスターだそうです。ハリウッド映画しか見ていないと、やっぱりハリウッド映画って凄いなと感心してしまうかもしれませんが、実はリアリティを出す演出として映画の中にニュース映像を入れるという手法はかつて日本の特撮映画でよく使われていたものなのです。『ゴジラ』(1954年)の中の「さようなら、みなさん、さようなら」の名台詞で有名なラジオ中継シーンとか。ちなみにこのアナウンサーを演じたのは役者さんではなく現役のTBSアナウンサー池谷三郎氏(惜しくも2002年亡くなられました)で、他にも『空の大怪獣ラドン』『宇宙大戦争』『モスラ』『世界大戦争』『妖星ゴラス』『怪獣大戦争』『怪獣総進撃』など1960年代の東宝の特撮映画でアナウンサー役で出演されているとのこと(出典はこちら 。それから記録映像に登場人物を合成するというのもウディ・アレンが監督、主演した『カメレオンマン』(1984年)がすでにやってます。こっちはわざわざ架空の人物のドキュメンタリー映画という凝った体裁にしていますけど。この映画も結構キテレツなので別の機会に詳しく紹介しましょう。
さて「特別版」のDVDには、特典でCGのメイキングも収録されているのですが、オープニングの地球から太陽系、銀河系、外宇宙への見事な移動シーンは6ヶ月もの期間をかけて作られたそうです。このブログではわりと最近の映画を貶すことが多いのですが、とにかくCGの使い方が安易すぎるのです。特にダメダメなのがジェリー・ブラッカイマーが製作にからんだ作品とマイケル・ベイ監督の作品(声を大にして)。だから科学的考証の片鱗もない『アルマゲドン』なんかは虚仮脅しだけで意味のないCGを濫用していて最悪です。たぶん最新作の『トランスフォーマー』でも同じようなことをしてるんでしょうね。

この映画はカテゴリーとしては「SF映画」ではあるのですが、主人公であるエリーが仕事で上司と対立したり挫折したり、突然恋に落ちたり、恋人とすれ違ったり、最後に愛を確認したりと人間的に成長して行く姿を描いたドラマ作品だとも言えます。SFが苦手という人はそういうドラマ作品として楽しんでもいいかと思いますよ。ジョディ・フォスターはもちろん巧いんですが、変人の大富豪ハデンがソ連のミールからわざわざエリーにオンラインで通信してきてドアップで「乗ってみるかい?」と誘うシーンとか、パイロットに選ばれたドラムリンが会いにきたエリーに言い訳半分で人生訓を垂れるシーンとか、調査委員になったマイケルが公聴会で「オッカムのカミソリ」を引用してエリーを問い詰めるシーンとか脇役のおっさん連中のキャラの立ち具合が絶妙で、純粋で情熱家だけど協調性にかけているキャラであるエリーとの対比でストーリーを盛り上げてくれてます。コメディ映画ではないですが、アリゾナの電波基地に集まった野次馬連中のお祭り騒ぎの様子なんかは思わずニヤリとさせられます(カスタムカーのオーナーの集まりが出てきますが、これはファセル・ヴェガという車で、電波がヴェガ星から来たということで、単なる語呂合わせで集まったというこの監督らしいユーモア)。

ちなみにこの映画で一躍有名になったSETI(セティ)プロジェクト(=Search for Extra-Terrestrial Intelligence)ですが、現在は映画の冒頭に登場するプエルトリコアレシボ天文台によって収集された電波を解析し、人為的に発信されたと思われる信号を検出するために、BOINCという分散コンピューティングのためのソフトウェアを配布してこれをプラットフォームとしたSETI@home(セティアットホーム)プロジェクトを行っています。興味がある方はこちら 

究極映像研究所さんのレビュー
「細部に神が宿る」とは言い得て妙。画面ではほとんどわかりませんがエリーを乗せたハリアー戦闘機が管制船に着陸するシーンでは着陸甲板にちゃんと誘導員がいるのです。このこだわりがすばらしい!