『殺人狂時代』 

1966年 日本 監督:岡本喜八

殺人狂時代 [DVD]

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もう一発岡本作品を。いやーメチャクチャ面白いです。変な殺し屋が次々登場したり、二重三重のドンデン返しがあるストーリーとか、ちょっとスパイ物みたいなテイストがあったりとか、マッドサイティストも出てくるしで、第一シリーズの『ルパンIII世』っぽい。他の岡本作品と違ってあんまりシンミリさせずに最後までハードボイルド・テイストなのもクール! 変な殺し屋たちは岡本喜八版の『快傑ズバット』か。

あらすじ

水虫でド近眼でマザコンのさえない心理学者、桔梗信治(仲代達矢)がある晩アパートに帰ってくると、見知らぬ丸顔の男(加東大介)が待っていた。男は「大日本人口調節審議会」の会員で、世界を優秀な人間だけで構成するために世の中の役に立たない人間を抹殺しているという。桔梗はパラノイアだと決めつけるが男は意に介さず、剃刀を仕込んだカードで桔梗を殺そうとした。間一髪の偶然で男を倒した桔梗が警官を呼んでくると、なぜか男の死体はなくなっていた。
警察で犯罪記事の取材をしていた新聞記者の鶴巻啓子(団礼子)と桔梗は審議会が腕利きの殺し屋たちを雇っていると推理し、殺し屋に偽の依頼をして情報をつかもうとするが、殺し屋を紹介するというヤクザと喧嘩になり、さえないはずの桔梗があっと言う間にヤクザを叩きのめしてしまう。桔梗の腕前に惚れ込んだチンピラの大友ビル(砂塚秀夫)、桔梗、啓子の3人が審議会の謎を追っていくと次々に新手の殺し屋が現れる。
一方、審議会の黒幕、溝呂木(天本英世)は、協力を申し出ていた元ナチスゲシュタポ隊長を拷問にかけていた。彼は協力の条件に審議会の殺し屋をテストするため桔梗を指名したのだが殺し屋が次々返り討ちに遭うので、溝呂木は桔梗には何か秘密があると気がついたのだ。元ゲシュタポが桔梗を狙う秘密とは...。

ボサボサの頭、牛乳瓶の底みたいな黒縁眼鏡、もっさりしたしゃべり方、極めつけに「あ〜カユイ」と足の指の間を掻くのが演技とはいえかなりキモイ仲代さん。前半はこの徹底的にイケてない仲代さんを見てるだけでも楽しめます。後半では次第に桔梗の正体が明かされていくにつれいつものハードボイルド風の渋いキャラになりますが、わざとトボケた雰囲気なのがルパン風。乗ってる車がオンボロなシトロエン2CV(ドゥーシヴォー)ってのもイイ感じです(ちょとしたカーアクションもあって『カリ城』っぽい)。最初に対決する加東さんと仲代さんは、『用心棒』で猪之吉と巳之助兄弟もやってました。
ヒトラー信者のマッドサイエンティスト溝呂木博士を演じる天本さんは、しゃべり方からしてほとんど『仮面ライダー』の悪の秘密結社ショッカーの幹部「死神博士」そのまんまのキャラです。というか『仮面ライダー』の放送が5年後くらいなので、このキャラをライダーでもそのまんまやってたのかも。天本さんはスペイン語が堪能だそうですが、この作品では流暢なドイツ語を披露されています。ちなみにショッカーもナチスの残党という設定らしく、21世紀の現在ではナチスの残党とかいっても現実味がないですが、1960年代当時は南米にいる元ナチスの大物をイスラエルの情報機関モサドが追っかけてたりしてたんで、ネタとしてはそう現実離れしてるわけでもなかったのでしょう。
砂塚さんは『ああ爆弾』とほとんど同じキャラで眼鏡かけてるかかけてないかの違いくらい。
音楽が佐藤勝さんで『用心棒』と同じ。こっちの劇伴はジャジーで格好イイです。
原作はミステリー作家の都筑道夫氏の『飢えた遺産』(現在は『なめくじに聞いて見ろ』)。原作とは審議会や桔梗の秘密の設定がちょっと変わっているらしいので、原作を読んでいても楽しめるんじゃないでしょうか。
後半に出てくる自衛隊の演習シーンの中で飛んできた砲弾が不発で、桔梗がビルに『この弾の税金はおまえが払った分だろう』ってのが岡本監督らしい台詞で印象的でした。

公開当時は短期間で上映が打ち切られてしまったらしくカルト作品扱いされている本作ですが、テンポのいいアクション、控えめなお色気シーン、劇伴やファッションや小道具の格好良さ、ちょと現実離れしたひねったストーリーなど、最近数だけはたくさん作られるようになったテレビドラマみたいな邦画が失ってしまったテイストが満載で、今だからこそ多くの人に見てもらいたい作品。殺し屋つながりで市川昆監督の『ど根性物語 銭の踊り』、鈴木清順監督の『殺しの烙印』なんかと比べてみるのもそれぞれの監督の個性が見れて面白いかと。