『パプリカ』

2006年 日本 監督:今敏

2ヶ月ぶりの更新。更新されているかどうか気になって定期的に来てしまっている方(いるかどうかしらないが)に申し訳ないので、タイトルの後ろに(不定期更新ブログ)と追加しました。
筒井康隆先生が現在よりも少しだけSFっぽいのを書いていた頃の作品『パプリカ』がアニメ化されました。製作はマッドハウス今敏監督。どんなんかなーと思って観に行ったんですが、これって一言で言うと「大人向けの千と千尋の神隠し」?

あらすじ

精神科医の千葉敦子(声:林原めぐみ)は患者の夢を共時体験できる装置DCミニを同僚の時田(声:古谷徹)と共同開発し、患者の夢の中では美少女夢探偵コードネーム「パプリカ」として夢分析を行っていた。しかし未完成のDCミニが盗まれ、犯人によって夢に侵入された人々が次々に異常を来す事件が発生。DCミニの開発に否定的だった研究所の理事長(声:江守徹)は開発の停止を決定する。あくまでも真犯人を突き止めようとする敦子と時田だったが、責任感から一人で夢にアクセスした時田は犯人の悪夢に呑み込まれてしまう。時田を救うためパプリカとして夢にアクセスした敦子だったが、そこには意外な真相が...。

正直言ってどっかで見たような話です(苦笑。いや原作が書かれた時点ではこの設定やストーリーは十分に斬新だったんですが、『マトリックス』とか『イノセンス』とかここ10年くらいで虚構が現実に侵入したりとか、現実だと思っていたのがコンピューターのでっち上げた虚構だったとかのメタフィクション系の作品がやたら多くなったので、どうしてもそういう印象になってしまいますね。ただ面白いのは割とそういう作品は舞台が近未来で無国籍な場所になっていることが多いんですが、今監督の趣味なのか『パプリカ』は2000年代の東京に設定されていて、それは現実世界の「リアル感」を出したい配慮だったのかと。ただ何と言うかちょっとアナログでかつアナクロな感じ(粉川警部の夢のシーン等)もあるのですが、それは原作が筒井さんで、脚本が原作に忠実だからでしょう。今監督も何かのインタビューで原作の筒井テイストは残すようにしたと言っていたようです。

最初に「大人向けの千と千尋の神隠し」と書いてしまいましたが、実は作画監督(キャラクター設定も)が同じ安藤雅司さんでした。さらに他の作品との類似点みたいなのも結構あります。外注先にはGAINAXの名前もあったんですが、パプリカが孫悟空になって夢の世界にダイブしていくシーンの製作は多分ガイナかな?(DAICON FILMのパロディ)。終盤なぜか巨大化戦になってしまうのですが、ここだけ見るとすごく「エヴァ」っぽいです。もちろん巨大ロボ(ヘナチョコ)も出てきます。敦子や時田がファミレスで食事するシーン、時田の食いっぷりはまさに『ルパン3世カリオストロの城』のルパン。
夢が現実に侵入して来るシーンで逃げる敦子たちの足下に小さな大名行列が(筒井さんの短編『表の行列なんじゃいな』)、あとピンクの象と白いワニもいたような(ピンクの象は欧米ではアル中の幻覚として有名、白いワニは江口寿史の『すすめパイレーツ』にシャブ中&ネタ切れで睡眠不足の漫画家の幻覚として登場)
夢の中でパプリカが捕われてしまうシーン、相手役の声は山寺宏一さん。林原めぐみ山寺宏一って言えば『カウボーイ・ビバップ』のフェイ&スパイクですね。多分お二人も当時のことなどちょっと思い出しつつ演じられたんじゃないかと。

まあ、こういう小ネタは知ってても知らなくても楽しめる作品ですが。

あんまりジブリ作品をアレするとファンの人から文句が来そうですが、『もののけ姫』以降、声優の経験がない有名人をメインキャラクターのアフレコに起用してしまうことで、トータルの作品クォリティが低下してしまっているのはもう疑いようがないと感じます。なかには美輪明宏さんのように本職の声優としてもやっていけそうなくらいうまい人もいますが、それはおそらく美輪さんが舞台をやっていることと無縁ではないでしょう。本作での江守さんも元々は舞台俳優で、舞台をやっている俳優さんたち(声優さんも舞台に立っている人が多い)は発声の基本がしっかりしていて、声に感情を乗せること、言い換えると声の微妙なトーンやしゃべり方できちんと感情表現できるテクニックを持っているのです。これはドラマや映画をメインに活動している俳優さんとは大きく違うところでしょう。ジブリ作品は彩色前の動画で先にアフレコした音声に最終的な動画で口の動きをトレースさせるといった、これまで日本のアニメでは非常識であった技術を使ってまで、声優の弱点を悪く言えばごまかしていたんだってことが、この作品を観るとわかってしまいます。それくらい『パプリカ』の声優さんはハイレベルで、やっぱりアニメーションは声優さん次第だなーと改めて感じました。特に主役の敦子=パプリカ役の林原さんの演技(声優さんの場合は何と?)は最高です。「エヴァ」の綾波役でブレイクした林原さんは、どちらかというとあまり感情を表に出さない役(『名探偵コナン』の灰原とか)が多かったですが、『パプリカ』では前者タイプの美貌のエリート精神科医敦子と、まったく正反対の自由奔放なパプリカという2面性のあるキャラクターを実に巧く演じ分けていて(こんなに生き生きした声の林原さんは正直はじめて)、今後この作品が彼女の代表作になるのは間違いないと思いますし、これからの活動にも期待大です。

最後に音楽について。テーマ曲は元P-MODEL(といっても知らない人が多いと思いますが、80年代にはYMOと同じくらい有名なテクノバンドでかなり前衛的な楽曲をやっていた)の平沢進さんです。この人の音楽もテクノでデジタルなんですが、なんとなくアナログっぽいところがあって作品全体の雰囲気には合っている感じでした。ここのところどんな活動しているのか良く知りませんでしたが、今監督の『千年女優』や『妄想代理人』なんかの音楽も平沢さんが担当していたと知り、意外なところで活躍されていたので少し驚いた次第。