『未来世紀ブラジル』

1985年 アメリカ・イギリス 監督:テリー・ギリアム

未来世紀ブラジル [DVD]

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これからは、ちょっとだけ古い作品が続きます。
今回紹介する『未来世紀ブラジル』は奇天烈映画の本命かな。
テリー・ギリアム監督は、『ブラザーズ・グリム』がそこそこヒットしたのが記憶に新しいところ。あの作品のビジュアルセンスもかなりヘンですが、ファミリー向け路線の作品だったので全然本領発揮してないぞ。
この人、元々はイギリスBBCテレビの伝説的コメディ番組「モンティパイソン」(『モンティパイソンの空飛ぶサーカス』)のアニメーター。良くも悪くもモンティ時代のセンスで勝負し続けてます(最近負けがちだなあ)。
そんなギリアム氏が、ようやく日本でも一般公開されたモンティ解散後に監督した怪作『バンデットQ』の余勢を駆って真っ向勝負に出た。それが軽快なボサノバの名曲「ブラジル」に乗ってテロと拷問が日常化しちゃって、チューブがうねる高度管理社会の官僚独裁国家(?)での、とある下っ端公務員青年の妄想と現実がいったりきたりの恋と冒険の物語だ。

あらすじ

ある時代のある国。国民の情報をすべて国家が管理するこの国では、自由を求めてテロを行う人々がいた。その首謀者とされる修理工のバトル(ロバート・デニーロ)の逮捕に躍起になった政府は容疑者を捕らえては次々に情報剥奪局(情報剥奪ってのは拷問を遠回しにした言い方)に送り込んでいた。
死んだ父親が大臣だったサム(ジョナサン・プライス)は、母親から早く出世するように望まれていたが、彼には夢想癖があり出世も役所の仕事にも興味はない。そんな時バトルの逮捕状のタイプミスで無実の靴職人タトル氏が逮捕される。アパートの上階に住んでいるトラック運転手のジル(キム・グレイスト)はタトル氏の逮捕が誤認であることを陳情しに行くがお役所仕事で埒があかない。役所で彼女を偶然見かけたサムは一目惚れ。彼女はいつも夢に出てくる囚われの美女そっくりだったのだ。
数日後、タトル氏は拷問で死亡。担当の役人の手続きに間違いがあり、なぜかサムがその後始末を引き受けることになる。一方、役所ではバトル/タトル事件そのものを隠蔽するために、事情を知るジルを抹殺しようとしていた。それを知ったサムは...。

とにかくこの作品はビジュアルセンスが凄い、凄すぎ。室内やセットのビジュアルにこだわった作品は、カルト映画として評価される場合が多いです。『時計仕掛けのオレンジ』、『シャイニング』、『ブレードランナー』、『サスペリア』、『薔薇の名前』等々。特にこの作品ではチューブや配管が効果的に使われているのと、ちょっとレトロっぽい感覚が特徴。公開されたのは、やたらに「レトロ」が流行っていた頃で、邦画でも『帝都物語』とかやってたな。美術に凝ると予算が大変なんで、なるべく登場人物を少なくしてセットに金をかけるのがギリアム流。で、出てくるアイテムが一々かっこいい。小さいモニターを平面レンズ(フレネルレンズという)で拡大するタイプライターみたいなキーボードのPC端末とか、ドイツのメッサーシュミットが作った自動車をモデルにした単座の小型車とか、売ってたら絶対欲しいものばかり。

実はこの作品ラストはギリアム監督が意図したものとは異なるものになるところだったようで、そのへんの事情は暴露本『バトル・オブ・ブラジル』に出てます。まあ、いろんな意味で必見の映画。毒はちょっときつめなので万人向けではないけれど。